「麻布十番薬膳カレー新海」の店名にも入っている『薬膳』。皆さんは薬膳と聞いて、どのようなイメージが浮かびますか?きっと漠然としたことしか浮かばず、はっきりとは説明できないと思います。そこで今回は、この『薬膳』について言及していきたいと思います。
1.薬膳とは何か?
いつものように過ごしていても何だか調子が悪い。風邪の症状はないけど前兆を感じる。だるい。など、日頃と何かが違うように感じることを中国の古い医学書では『未病』と表記されています。
すなわち、未病とは病気の前段階。病気に向かっている状態、身体のバランスが崩れいていることを表しているのです。
そこで、その未病を病気になる前に身体のバランスを整えて、健康的な状態へと改善し、それを保つようにするために食材と生薬を組み合わせて作った料理を薬膳とします。
薬膳料理は「この料理が効果的」といった健康番組で特集されるようなものではなく、季節や食べる人の体調に合わせて作るのが基本です。
例えば、冷えが気になる人に体の熱を逃がす効果のある食材を組み合わせると、保温に必要な熱まで奪ってしまう可能性があるので体質に合っているとは言えません。また、同じ料理でも体質によっては合わない場合があるので、それを見極めて料理を作ることが大切なのです。
また季節に合わせた旬を迎えた食材を使うことで、気候に合った食材のパワーを体内に取り入れられるとも考えられています。
例えば、冬の時期の旬を迎える食材には体の中から温まる効果があるものが多く、春にかけてはさまざまな刺激から体を守ってくれる免疫力の高まる食材や苦みのある食材が多くなります。体質や季節に合わせて料理を行うことも、健康を食でサポートする「薬膳料理」の考え方です。
2.薬膳の歴史
今から3000年ほど前の中国で神農(しんのう)という生薬学の祖とも呼ばれている伝説上の人物が現れ、手に入る植物を自らの口の中に入れて「空腹のときにお腹をふくらませるのに良い植物はどれか」「具合が悪いときに体の調子を整えるのはどの植物か」などを次々と確かめ、それらに「毒は含まれていないか」「生薬としての効能はどのようなものか」などを一つ一つ確認していきました。
現在残っている最古の本蔵書である『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』では、植物・果物・動物・鉱物などの生薬と食材が紹介、365種が上品・中品・下品の3ランクに分類され、五味の臨床応用、薬物の産地・採取・炮製・配合・禁忌・服用方法など、用薬の原則といえる基本理論が示され、病名170種も記されています。
薬膳というものは、新しいものではなく武王が殷(いん)を滅ぼし周王朝を築いたときの周の時代(紀元前10世紀~7世紀)における官僚制度のことが書かれた「周礼(しゅうらい)」に、「食医」(医制として、他「疾医」「瘍医」「獣医」の4つの区分がありました。)という言葉が出てきているところから、この時代において既に皇帝や妃の健康維持・養生のために、治療や予防効果のある食事を施していたことがわかります。
薬膳の理論は、有名な中医学理論の医学書「黄帝内経(こうていだいけい)」の「素問」に「五味(辛・甘・酸・苦・鹹)」や五味と五臓の関係(五行説)、薬や食材の配合、使い方などについて記載され、理論として整理されてきました。
3.薬膳の考え方
【体の声を聞くこと】が薬膳の基本中の基本である考え方です。例えば、「寝不足ではないか」「食欲はあるか」「疲れていないか」と自分自身の体に問いかけて、その声に耳を傾けてみましょう。
また、体調は季節やお天気によっても左右されることも理解しておく必要があります。薬膳では、一人ひとりの体調や体質、季節や天候をよく観察し、その結果に見合った食材と調理法を決めていきます。難しく考える必要はなく、ただ自分の体が元気になるために”セルフメニュー”を作るということなのです。
薬膳を理解するためのキーワードとして3つ紹介致します。
身土不二(しんどふじ)
「身(体)と土を、二つにすることは不可能」と書きますが、これは「生まれ育った土地の食べ物が、体にとってもっとも良い」という意味になります。その土地で獲れたもの、旬の食材をとり入れることで、元気になろうという考え方です。
冬病夏治(とうびょうかじ)
「冬にかかる病気を、夏の間に治してしまおう(予防しよう)」といった意味の言葉です。夏の間に、体が必要とする料理をしっかり食べて体調を整え、冬には病気知らずの体にしようという考え方です。
医食同源(いしょくどうげん)
この言葉はご存知の方も多いと思いますが、「病気を治す薬と普段の食事は同様のもので、健康の源である」という意味です。体に良い物をしっかり食べて、もっと元気になろうという薬膳の基本を表している言葉と言えるでしょう。
(引用元:暮らし あと押し EO.「健康」)
4.普通の料理と薬膳料理との違い
目的は美味しいだけではない
東洋医学の考え方に、「邪気」(悪いもの)が身体に入り、それに自分の治癒能力が負けることによって人間は病気になるというものがあります。つまり、普段から自分の治癒能力を高めておけば、悪いものが入ってきても人間の身体はそれを撃退することができるという考えです。そのために必要なのが体質改善であり、一般的な料理の目的が食べておいしさを楽しむだけのものであれば、薬膳の主な目的は冷えや食欲不振などの不調を様々な食材や調理法を用いることで、その人がもつ体質自体を改善へ導く食事が薬膳料理です。
自分に合った食材や調理法で病気を防ぐ
中医学では、「未病」という考え方が用いられます。未病とは、なんとなく身体がだるい、やる気がでないなどといった、はっきり症状がでているわけではない、健康と病気の間の状態を指します。この「未病」を防ぐため、原因を調べて自分にどのような物が足りていないのかを知り、不足している栄養素を個々の体質に合った食材・調理法で補給するのを目的とした料理が薬膳料理です。
むくみや出来物の改善(薬膳での解毒を示す)
薬膳では、体の解毒を行うことを1つのテーマとしています。体のむくみや出来物というのは、体の何らかの異常反応を示していて、老廃物を体外に排出するデトックス機能が弱まっている証拠として考えられます。そのような場合、薬膳の考え方では体を温め血行を促す効果が期待出来る、生姜・くるみ・ニラ・豚肉などの食材を積極的に選択したり、デトックス(解毒)には「肝」の働きを高める調理方法・食材がポイントとなるため、肝に効果的な食材を選択し、それらを改善することを目指します。このように、薬膳には解毒を行う考えがあるため「薬膳=美肌・便秘改善」などといったイメージが定着したのだと考えられます。
5.日本における薬膳に関する資格
日本で取得できる薬膳資格は多く存在しますが、その中の9つを紹介いたします。
①薬膳調整師
薬膳調整師は、日本安全食料料理教会(JSFCA)が認定している資格です。薬膳の基礎知識に加えて、漢方としての食材に対する効能を十分に理解している証明になります。
②漢方アドバイザー
一般社団法人日本技能開発協会が認定する資格です。漢方に関する基本的な知識、正しい服用方法などのスキルを身につけていることを証明するための資格で、自身や家族の体調改善に役立てられます。
③薬膳コーディネーター
薬膳のスペシャリストを養成する教育機関である本草薬膳学院が認定する資格です。資格を取得することで、薬膳の基本的な知識が一通り身につき、毎日の食生活にも手軽に薬膳を取り入れられるようになります。また、資格取得後、一部学費割引で本草薬膳学院への編入が可能です。
④薬膳アドバイザー
薬膳アドバイザーは、日本中医食養学会が認定している資格です。薬膳の基礎を学んだ証です。「中医薬膳指導員」と「中医薬膳調理師」の受験資格を得られます。
一般財団法人日本能力開発推進協会が認定する資格です。薬膳や中医学について基礎知識を有すること、また、疾患や症状別に最適なレシピを提案できることなどを証明します。おもに飲食業界や医療福祉業界を目指す人が取得する資格です。
⑥和漢薬膳師(薬膳マイスター)
一般社団法人和漢薬膳食医学会が認定する資格です。旧名の「国際薬膳食育師」から変更され、現在の名称になりました。中国の伝統的な健康料理、薬膳を日本風にアレンジした「和漢膳」についての知識と技術を有することを証明する資格です。
⑦中国漢方ライフアドバイザー
一般財団法人日本能力開発推進協会が認定する資格です。漢方についての基礎知識から、症状別に処方される漢方薬の種類、漢方の料理や美容への取り入れ方など、さまざまな知識を総合的に身につけていることを証明できます。ただし、病気の診断や漢方薬の処方など、医療行為に該当する行為はできません。
⑧香港薬膳スープインストラクター
一般財団法人日本能力開発推進協会が認定する民間資格です。香港では健康維持・改善を目的に薬膳スープを食す習慣があります。本資格では、香港薬膳スープの理論や作り方等の知識を有し、それを実際に生かせるレベルにあることを証明するための資格です。
⑨薬膳茶アドバイザー
一般社団法人日本中医営養薬膳学研究会が認定する資格です。中医学と薬膳茶についての基礎知識を有し、人に合わせて適切な薬膳茶を施茶できる能力を有することを証明します。
6.薬膳料理の一例
知らないだけで無意識に私たちは薬膳料理を口にしています。例えば、『お豆腐+生姜の冷奴』皆さん一度は食べたことがあるでしょうし、普段からよく食べる方も多いのではないでしょうか。実はこれも薬膳料理なのです。お豆腐に生姜を加えるだけで、消化機能を整える・体内の余分な熱を取り除く・解毒作用などの効果を期待できる薬膳料理となります。
他にも、『お刺身+大葉+ワサビ』も薬膳料理です。お刺身に添えられている大葉を仕切りやただのお飾りとして、食べない方も多いですが、この3つを一緒に食べることで・解毒作用・めぐりを高めて消化機能をサポートする・胃腸を温めて冷えを防いでくれるなどの効果を期待できます。
このことから、私たちは知らないだけで薬膳料理を食べていたとともに、昔から一緒に添えられているものは理にかなっているということが言えます。薬膳と聞いて、敬遠していた方もこれを知ることでだいぶ身近に感じられるのではないでしょうか?
7.当店が意味する薬膳とは?
当店に来店してくださる大切なお客様一人一人の体調・体質・季節や天候を考えて、それぞれに合った食材・調理法を変えることはなかなか困難です。そこで、種類豊富なスパイス・ハーブを贅沢に使用することや、消化吸収の観点から胃腸に負担がかからないように食材選び、グルテンフリー・ローオイルなどの調理法にこだわっていることが、私たちの皆様に届けられる薬膳料理だと考えております。
更に、日頃の生活で摂取不足に陥りがちな健康維持に必要不可欠である野菜をたくさん摂取して欲しいという想いから、酢酸による疲労回復効果を期待できる薬膳ピクルスをサイドメニューに